一般的に「のれん」と聞くと、多くの人は店先に掛けられた暖簾(のれん)を思い浮かべるでしょう。これは、日本の伝統的な商習慣である「のれん分け制度」にも関連しています。この制度では、成功した店舗が新たな店舗を開くときに、暖簾を受け継ぐことで、そのブランドや信頼性をも引き継げるというものです。このように「のれん」という言葉は、広義にはブランドや評判を意味し、日本の伝統的な用語として用いられてきました。
一方で、M&A(企業の合併・買収)の文脈においても「のれん代」や「営業権」という言葉が登場します。これらは、企業経営において将来の収益力を生み出す価値を持つ無形資産を指します。具体的には、企業の純資産に上乗せされる価値の要素として「のれん」や「営業権」が挙げられます。ブランド力の大きな企業ほど「のれん代」が大きくなる傾向があり、それにより企業価値が一層高まるイメージを持つことができるでしょう。
M&Aにおける営業権・のれんの重要性
M&A(企業の合併・買収)において、買収価格を決定する上で重要な要素の一つが「営業権」や「のれん」です。これらは譲渡金額を設定する際に非常に重要な役割を果たします。多くの経営者は、営業権の売却を考え始めると、その評価がどのように高くなるのか気になることでしょう。
営業権・のれんの定義
M&Aにおける「営業権」や「のれん」は、ブランドやノウハウに限らず、情報や人材、将来の収益を生み出す元となる無形資産全体を指します。M&Aの譲渡価格の交渉においては、買収時点での資産の評価額だけでなく、その企業が持つブランド価値や独自の技術力、信用力などが総合的に評価され、将来的な収益力を元に算定されます。
目に見えない価値の評価
企業が既に保持している資産や負債の価値はある程度明確に数値化されていますが、営業権やのれんは目に見えない価値が評価の対象となります。将来得られると期待される収益に基づいて、買収価格が上乗せされるのです。
ベンチャー企業やスタートアップの買収ケース
例えば、ベンチャー企業やスタートアップが大企業に高額で買収されるケースの多くは、営業権やのれんが大きく評価された結果によるものです。独自の技術や革新的なサービス、強力なブランドを持つこれらの企業は、それらが高く評価されるのです。買収側の企業は、これらの無形資産から得られる将来の収益を見込むために高い買収価格を提示することができます。
営業権とのれんの違い
営業権と のれん は、M&Aにおける買収価格の決定において重要な概念です。ここでは、それぞれの違いを説明します。
営業権とは
営業権とは、会社が長期間にわたって収益を上げるために重要となる無形固定資産の一つです。この無形固定資産には、営業権の他に特許権や商標権などが含まれます。営業権には、企業のノウハウやブランド力、情報や人材など、将来収益を生み出す元となる無形資産が含まれています。具体的には、以下のような要素があります。
- ブランド
- ノウハウ
- 技術
- 従業員
- 顧客リスト
- 取引先ネットワーク
例えば、純資産が1,000万円の企業に2,000万円の営業権を加算し、合計3,000万円で買収する場合があります。このように、企業の純資産に営業権を加算して算定されるM&A価格が一般的です。収益力が高い会社ほど営業権が高く評価される傾向がありますが、業績が悪い場合には負の営業権としてマイナス評価されることもあります。
のれんとは
一方、のれんとは、会社の買収において「実際の買収額」が「買収された会社の純資産額」を上回る分の差額を指します。具体的には、買収価格から純資産を控除したものがのれんです。のれんは、最終的なM&A価格から純資産を減算することで算出されます。この差額は、2006年の会社法施行により「のれん」と定められました。
営業権とのれんの共通点と違い
営業権とのれんは、どちらも買収会社の価格と純資産の差額を表すものであり、ほぼ同義とみなして差し支えありません。しかし、それぞれの用語は歴史的背景と会計上の取り扱いに違いがあります。
共通点
営業権とのれんは、M&Aにおいて、企業の買収価格がその企業の純資産額を上回る部分を表しています。これは、買収される企業が持つブランド力、顧客基盤、従業員の能力、技術力、その他の無形資産の価値を反映しています。
違い
営業権は、会社法施行以前には会計上の勘定科目として使用されることもありました。企業のノウハウやブランド力、顧客リストなどの無形資産全体を指し、「純資産+営業権=M&A価格」という考え方が使われていました。
一方、のれんは、2006年の会社法施行以降に会計上で正式に定義されました。のれんは、買収価格から純資産額を差し引いた差額として計上されます。つまり、「M&A価格-純資産=のれん」ということです。このため、現在の会計基準では、営業権という勘定科目は使用されず、のれんとして扱われることが一般的です。営業権と同様に、無形資産の価値を表しますが、計算方法と表記が変更された点が重要です。
用語の使用
それでも、「純資産+営業権=M&A価格」というシンプルな概念がわかりやすいため、M&Aの現場では営業権の名称が使われることがあります。このように、営業権とのれんは同義でありながら、会計上の取り扱いや歴史的な背景に違いがあることには留意が必要です。
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