赤字会社を事業譲渡で買収するメリットとデメリット

経営環境はグローバル化、技術革新、消費者行動の変化などにより劇的に変わっています。これに応じて、企業は組織構造の根本的な見直し、つまり組織再編を迫られることがあります。この記事では、組織再編の手法の中でも、特に赤字会社の事業譲渡を通じた買収のメリットとデメリットに焦点を当てて詳しく解説します。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、企業が自らの事業の一部または全部を他の企業に移管する組織再編の一つの手段です。事業譲渡は売買と同様の取引上の契約であり、会社法上の契約たる合併、会社分割、株式交換や、包括承継の相続とは異なります。具体的な手続きとしては、まず売却する事業の評価や価格の交渉が行われ、次いで譲渡契約の締結、最終的には事業の移管となります。比較的短期間での実施が可能であり、また選択的に部門や事業単位での移管ができることから、一定の条件下では、有効な組織再編の手段として認識されています。

赤字会社における事業譲渡の背景

経営状況が悪化し赤字に転落した企業が経営改善や事業の再生を目指す際、一部の事業を切り離すため、事業譲渡が検討されることがあります。赤字会社の事業譲渡のパターンとしては、赤字の原因となる事業部門を切り離して売却されるケースと、赤字会社でありながら利益を上げている部門が売却されるケースが考えられます。

赤字事業が売却されるケース

一般的に、赤字事業はキャッシュを生まないため、事業価値がないと見なされがちです。しかし、その価値は買い手の視点によって変わることがあります。赤字事業の経営資源が買い手によって高く評価される場合、シナジーを生む可能性がある場合、または買い手の経営能力によって事業の再生が可能と見込まれる場合などは、買収企業がその価値を認め、事業譲渡が実現する可能性があります。

黒字の事業を持つ赤字会社の売却ケース

赤字会社であっても、一部の部門が利益を上げていることは珍しくありません。このような黒字部門は、会社全体が赤字であっても、買い手の注目を集め、事業譲渡の適切な候補となることがあります。これは、全体として赤字の事業を売却するケースとは対照的です。売却される部門自体が明確な価値を持ち、その買収から具体的な利益を期待できる点に大きな違いがあります。

事業譲渡による買収のメリット

事業譲渡は、企業や組織が特定の事業部門や資産を別の企業や組織に移転する手法です。これは、全社規模の買収とは異なり、特定の事業領域に焦点を絞った取引となるため、特有のメリットを持ちます。ここでは、事業譲渡によって享受できる具体的なメリットについて、赤字企業の事業譲渡のケースにも触れながら、掘り下げていきます。

対象事業の資産・負債の限定的な引き継ぎ

事業譲渡の大きなメリットが、全社的な債務を負担することなく、対象事業だけに関わる資産、負債だけに限定して引き継げるということです。これにより偶発的な債務を引き受けざるを得ないような状況に陥ることも回避できます。偶発的な債務とは、現時点でその発生や金額が不確定で、将来にわたって負う可能性がある債務を指し、買収対象企業の将来的な財務リスクを表すものです。経営状況の厳しい赤字企業は、経営にトラブルを抱えることもあり、そのような偶発的な債務を抱えている場合もあり得ます。その点、事業譲渡では、このような不確定な負債を負担するリスクを避けることができるのです。

事業譲渡の戦略的メリット

事業譲渡は、特定の事業部門の買収により、買い手企業の経営を強化し、事業を拡大する有効な方法となり得ます。譲渡される事業の業務手法、人材、インフラを活用することで、新しい経営方針や事業展開を円滑に推進することができます。赤字企業といえども、買い手にとって魅力的に映るノウハウや、有能な人材、有効なインフラ等を抱えていることがあり、その獲得のため戦略的に赤字の事業譲渡を受けることは有効な一手といえます。

相対的に取得コストを抑えられるメリット

前述のとおり、赤字事業であっても、買い手が事業のシナジーを見出したり、その経営力で再生を果たせる見込みがあったりするならば、その事業は価値ある譲渡対象となる可能性があります。赤字事業は、相対的にその取得コストを低く抑えることができる点も、その可能性を高めることでしょう。このような赤字事業の譲受には一定のリスクが伴いますが、取得コストの削減により投資対効果を早期に発揮できれば、その事業譲渡は成功といえます。

人材の資産化と再配置

赤字会社に所属する専門知識や経験を持つ有能な人材を獲得、活用できる場合があります。事業譲渡を通じて、これらの有能な人材を戦略的に活用することで、新たな分野への進出や、競争力の強化を図ることが可能です。赤字事業の人材を有効に資産化し、彼らを適切なポジションに配置することは、事業譲渡による新たな成果と機会の獲得につながります。

赤字事業の事業譲渡における節税メリット

赤字事業の事業譲渡を行う場合、税制面や会計面でのメリットが存在します。赤字事業を譲り受けた企業は、その赤字を既存の利益事業と組み合わせることにより、全体的な課税所得を減少させることが可能です。この方法により、譲り受けた企業は節税効果を享受でき、財務状況の改善に寄与することが期待されます。

事業譲渡による買収のデメリット

前述の通り、事業譲渡は特定の事業部門や資産の取引に特化した方法として、多くのメリットがありますが、同時に留意が必要なデメリットもあります。事業譲渡を成功させるためには、これらのデメリットを認識し、適切な対応をとることが不可欠です。以下では、赤字企業の事業譲渡のケースにも触れながら、事業譲渡による買収のデメリットについて確認します。

譲渡対象の評価の複雑さ

事業部門や資産の真の価値を評価するのは容易ではありません。特に赤字事業の場合、過去の実績や財務データが不十分である場合や、将来の市場の動向が不透明である場合など、適切な評価が困難となります。これにより、価値に見合わない不適切な価格での取得や、意図しないリスクの取得となる可能性があります。

新たな雇用契約や手続きの煩雑さ

事業譲渡は、買収対象となる事業で働く従業員の雇用契約をそのまま引き継げない点に留意が必要です。事業部門の移行時には、譲渡される事業部門の従業員と新たな雇用契約や関連手続きが必要となります。新たな雇用条件の提示や、場合によっては労働組合との交渉など、多岐にわたる手続きが必要です。

異なる企業文化の融合の困難さ

事業譲渡に伴って移籍する従業員の円滑な受け入れと統合は極めて重要です。企業文化の違いや働き方のギャップを鑑み、従業員の士気を維持しながら統合を進めるには、詳細なコミュニケーションが不可欠です。特に赤字企業からの移籍の場合、業績不振によって従業員の意欲が低下していることも想定されるため、特に繊細な対応が必要になります。従業員の期待や懸念に耳を傾け、適時の情報共有とサポートを提供することが求められます。これらのプロセスが不十分な場合、従業員の退職や士気の低下が生じ、結果として事業運営に悪影響を与えるリスクが高まります。

契約や取引に関するリスク

事業譲渡には、買収する事業の過去の契約や取引に起因する潜在的なリスクが含まれる可能性があります。例えば、事業部門が過去に結んだ契約の中で、未来に生じる不利な条件が含まれている可能性や、特許や著作権の問題、隠れた環境問題など、事業の特性に応じた様々なリスクが考えられます。特に赤字企業の場合は、経営不振に起因して何らかのトラブルを抱えている可能性が高いこともあり、細心の留意が必要です。

おわりに

以上、赤字会社を事業譲渡で買収するメリットとデメリットについて解説しました。赤字会社の事業譲渡においても、様々なメリットがあることをご理解頂けましたでしょうか。一方で、特に赤字会社の事業譲渡のプロセスは複雑であり、留意すべきいくつかのデメリットが存在しますが、その対策には、専門家の支援や活用も必要不可欠です。事業譲渡の成功には、綿密な戦略策定と計画的な取り組みが求められます。これらの対応を着実に実行することで、事業譲渡の成功に近づくことができるでしょう。

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